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精神科医でミュージシャンで一児の母の私が今思うこと:ジャズ教育現場での暴力事件を受けて、具体的に何ができるかを考える

先日の中学生のジャズ教育現場での暴力事件を受けて、たくさんの方の考えを読み、知ることができました。

大きく報道されたことで世の中のジャズに対するイメージが非常に悪くなってしまったこと、ジャズを愛する人はみんな悲しんでいます。私もその一人です。

実は、この事件が起きるずっと前から、自分の子育ての中で日本の教育について、随分と考えてきました。そして、実践してきたことがいくつかあります。

メディアが騒ぎ立ててから少し時間が経ち、もう皆さんの喉元は通り過ぎてしまったかもしれませんが・・・

ここでは、ただ議論をするだけはなく、もう一歩踏み込んで専門家らしく、他の方と異なる視点で考えていることを具体的にまとめることにしました。

 

個人攻撃は意味があるのか?

これは前々から感じていたことではありますが、何か問題が起きると、その該当者を公開処刑のように槍玉に挙げ大騒ぎをするのみで、現実的な解決策や対応がなされるわけれもなく、時とともに話題のフレッシュ感が失われれば忘れ去られていく。そういったことが繰り返されていることそのものに疑問を感じています。

傷つく人が増えるだけで、世の中が良くなる訳でもないのに、なぜ個人を攻撃をする理由があるのでしょうか。新たなハラスメントが生まれているだけでは?と思います。

バッシングをすることで、次世代に向けての何か具体的な対処法や方法論が見出せるのでしょうか?

私は、もっと別の方法でこの問題に対峙する必要があると考えています。

 

今回の件ですが、指導する側の方が、感情を理性でコントロールできなくなり、表出方法を誤って暴力に至ったと仮定して、お話することにします。

もしかしたら、指導される側もなのかな?という憶測もありますが、それも含めて検討してみて良いのでは、と。

実は、日本では、感情のマネージメントを子どもの頃に学ぶことができる機会が非常に少ないのです。

そのために、大人になっても上手に自分の感情を処理することが苦手な人が多く、それがハラスメントや暴力の背景にあるということがずっと気になっています。

ここで扱う、コントロールが必要な感情というのは人に迷惑をかけてしまうほどに振れ幅が大きくなってしまったものを指します。人間の持つ自然な心の動き全てを制御する、という意味ではありません。

そんなわけで、これを機に、私の考えをお伝えしてみたいと思っています。

皆さんは、自分の感情と適切にお付き合いできていますか?

 

ハラスメントと暴力(体罰含む)について考える

 

日本のあちこちでハラスメントが蔓延している状況を知ってほしい

日本に帰国して、まず最初に感じたのが「なんて具合の悪そうな人が多いんだろう」ということでした。留学中、周りのドクター達から「どうして日本人は線路に飛び込むのか」「不安や緊張の強い人が多いのはなぜか?」とよく聴かれました。

そして現地と日本の外来患者さんとを比較した時にうつや不安の症状は似ているのに背景にある原因がだいぶ異なることを疑問に感じ、自問自答し続けてきた結果たどり着いた一つの答えが、日本社会に蔓延しているハラスメントでした。

抑うつ状態で外来に来る患者さんにお話を伺うと、ものすごく追い詰められた状態の方が多く、かなりの割合でハラスメントを受けている方がいらっしゃいます。

特に、新人教育や異動に伴う教育現場と学校、家庭内でのハラスメントが多発しているようです。

 

ハラスメントや暴力抜きでも、良い教育や指導は可能である

音楽に話を戻しますと、ジャズの教育現場というのは色々あって、大学や専門学校のような人が入れ替わり立ち替わりする場と、
個人で行われているような指導とではだいぶ状況が異なると思います。

閉鎖的な場所では、ハラスメントは生じやすくなります。

素晴らしい先生や、教育内容を実践されている現場もたくさん知っています。

でも、一方で、そうでないものも非常に多いのが事実です。

私のLAの先生方が日本に行くと、そのあと「なぜ日本では誰が上か下かとか、みんな気にするの?」「なぜ音楽や英語力以外のことで、皆あんなに悩んでいるの?」と言った質問をされることが幾度となくありました。

アメリカに留学して良かったことの一つが、あらゆる場でハラスンメントを受けなくなったことです。

意地悪をされることはありましたが(笑) 立場や経験値が上の方から、というのは経験しませんでした。
職場にも、部下が上司を評価するといった形で、ハラスメントをある程度、監視できるようなシステムがあります。

現地で関わった医学・音楽の全ての先生が、それを当たり前のこととして実践されていて、自分も安心して学び、成長できたことは、とても大きな糧になりました。

また、現地のプリスクールに子どもを通わせ、読み聞かせで感情調節を扱う絵本を取り入れていたり、子どもへの声掛けに行動科学が取り入れられているのを目の当たりにしました。

圧力をかけたり、相手を卑下したり、辱めるといった不快な感情をあえて引き起こすような手段を用いなくても良い指導は可能なのです。

本当に、素晴らしいことを教えてもらったと感じています。

そのような教育が日本でも当たり前に受けられるようになるには私たち親はどうしたら良いのか、真剣に考えなくてはなりません。

 

ハラスメントが起きやすい環境

ジャズはもともとアメリカの音楽・文化ですから、日本にいて日本で育った人が学び習得するのはそもそもとてもストレスフルなことだと思います。

ですから、日本におけるジャズ教育というのはおそらく、指導者・生徒ともに、一人一人に課される課題も多く、知らないことも多い、誤った情報が錯綜しやすい、不安になりやすい、といった状況です。

これはつまり、ハラスメントが起きやすい環境が整っているということです。

きっと多くの方が、口にはしなくても悩み、辛い想いをされていると思います。

 

子どもへの影響は? 記憶が薄らげば、本人が納得していれば害はないのか?

ここでは、少し科学的な話をします。

暴力や暴言、相手を攻撃する言動というのは、相手の行動を変える効果は高くありません。

厚労省からもアナウンスが出ていますが、体罰や暴言は子どもの脳の前頭前野を萎縮させたり、聴覚野が変形したりという、脳の発達に重大な影響を与えるという研究結果が出ています。(Tomoda A et al 2009, 2011)

また、子どもは大人の言動を見て常に学習をしているので「相手が思い通りにならなければ暴力・暴言をしても良い」という
無意識の刷り込みが行われて、将来そのお子さんが人に対して暴力や暴言をふるってしまう確率が高まります。

大人が教えてしまっているということです。

よく、キレる子供が話題になりますが、ひょっとしたら、その子の周りには感情のコントロールができずにキレる大人がいるのではないでしょうか?

 

今、具体的には何ができるのか?

まずは大人が、アンガーマネージメントを

先生と呼ばれる仕事をする人は行動科学を学ぶことが重要だと思います。
行動科学の考え方を用いることで、相手にどのように伝えれば好ましい行動が増えるのか、困った場面でどうしたら良いかを自在に考えられるようになり、教えるという仕事そのものが楽に進められるようになります。

ハラスメントや、今回のように指導者が感情に任せて行動しその結果、暴力に至るということを防ぐためにも、大切なことです。

そして、もし子どもさんが発達や感情調節の問題を抱えているのでれば早めに医療にヘルプを求めていただくことも大事です。

私たちが子どもの頃というのは、まだ学校の先生が手をあげたり、家庭でも親が子を叩く、といったことがあった時代だと思います。

誰も科学的に体罰を考えたりはしていなかった時代。子どもの抱えている精神科的な問題への理解も乏しかったでしょう。

でも、自分たちがやられてきたことを深く検討せずにこのまま踏襲し、体罰容認、その場限りは効果あり、みたいな風潮がこのまま日本全体に広がっている状況はどうにか変えていかなくてはならないのです。

おそらく、ハラスメントをしている側は、過去にされた経験があるはずです。そして、その乱暴な方法で何かが変化したことを体験していて、それを行えば相手が自分の思い通りになると認識してしまっています。

もし、相手に精神科的な問題があるのなら、脳のホルモンのアンバランスや微細な形態的な変化、あるいは未だに解明されていない何かが原因なので、それは暴力や暴言では治りません。

私は、まずは大人が自分たちの感情を上手くコントロールできるようになること、ハラスメントを減らすことで、社会全体が良くなると考えています。

きっと抑うつ状態でクリニックに来る方も減るし、子どもへの悪影響も減ります。

そして、ハラスメントが次世代に受け継がれることも減ります。

 

暴力やハラスメントは犯罪だという認識を

私はロサンゼルスで出産し、4年ほど生活しました。
現地では、大人が子どもに暴力や暴言を振るっているのを誰かに見られたら、通報されてしまいます。

子どもが夜泣きやイヤイヤ期の頃に大泣きをしている時など、自分が通報されるのでは無いかとヒヤヒヤしたものでした。

50カ国以上の国で、親子であっても暴力は違法です。

日本ではまだまかり通っていることなのかもしれませんが、それが現在の世界の流れです。

愛の鞭?と虐待は紙一重。

一度起きてしまった心傷体験については、時とともに記憶は薄らぐかもしれませんが、消すことは非常に難しいものです。

外来でたくさんの不登校の高校生を診ていますが、子どもの頃からの教育は本当に大きな影響を与えてしまうものだと感じています。

あなたはお子さんの脳に、将来にまで残る悪影響を残したいですか?

教育は変えられないのか?

医学、音楽、子育てをアメリカの都市部で経験して感じているのは日本がいちばん諸先進国に遅れをとっているのはこの教育の分野ではないか?ということです。

おそらく、素晴らしい教育とはどういうものかを皆が知らないのかもしれないですね。

日本で行動科学を取り入れた教育というのは非常に探すのが難しいです。

ロールモデルがいなかったり、参考にする対象があまりにも少ないのです。

だから、いつまでたっても、教育に科学が結びつかない。

医学の分野は、志のある医師やコメディカルは
自分で英語で最新の情報を学び実践しています。

音楽の分野は、私の知る限り、日本のジャズ界には世界に訴えかけられる実力のある素敵な音楽・人がたくさん存在しています。

でも、教育についてはどうでしょうか?

今の日本の環境では、自分がよほどしっかり考えて行動しなくては、ハラスメントから自分の子を守ることができないし
国際基準のソーシャルスキルや感情調節スキルを持った子に育てることがとても難しいです。

批判や議論も大切ですが、もっと大事なのは、実際に行動することです。

行動して初めて、状況を変化させられるからです。

 

怒りという感情をもっと知りましょう

海外では、文化の異なる人が共存していくためにお互いを認め合う必要があり子どもも大人もソーシャルスキルを磨くことの大切さをよく知っています。

ソーシャルスキルを磨く方法の一つに、自分の感情のマネージメントが挙げられます。

怒りや不安とどうお付き合いするかは、とっても大事なことです。

 

アンガーマネージメント入門

自分の怒りの処理のスタイルを把握していますか?

怒りは自然な心の動きではありますが、表現方法が偏ったりうまく表現ができないと、支障が出てしまいます。

様々なパターンを組み合わせて自己表現できるようにすることが大事です。

以下は、外来で「イライラがコントロールできない」と相談された時にお話しするようなことをシンプルにまとめたものです。

いつも同じ表出しかできなかったりすると、怒りが生活に支障を及ぼしてしまいます。バランス良い感情表現が大事です。

 

アンガーマネジメント 11の方法―怒りを上手に解消しよう自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブックイラスト版子どものソーシャルスキル―友だち関係に勇気と自信がつく42のメソッド

「怒り」がスーッと消える本―「対人関係療法」の精神科医が教える
対人関係療法の普及に熱心に取り組まれている水島広子先生の「怒り」が消える本は、
ジャズの大先輩、宮嶋みぎわさんにオススメの一冊でもあります。

 

怒りには3つの表現パターンがあることを知ろう

⑴隠された怒り
怒りを回避する(自己主張できない)
陰険に遠回しに怒りを表現する
怒りが内側に向いてしまう(無力感や絶望感を感じやすくなる)

→これらのパターンが多い人は、自分の怒りをきちんと表現することを自分に許してあげたり、
自分を大切にするということを考えてみると良いでしょう。

⑵爆発的な怒り

キレる(突然怒り出す、暴力に至りやすい)
羞恥心を隠すために怒る(自己肯定感が低いために批判に過敏になり人を攻撃してしまう)
意図的な怒り(人をコントロールするために怒りを用いてしまう)
興奮を求めての怒り(怒ることで興奮し、感情的にハイになることを求めてしまう)

→不安の表出がこれらのパターンに偏ると、危険で、強力で、周囲の人を不安にさせてしまいます。日頃から自己肯定感を高める努力する、ストレス低減法を学ぶ、穏当に日々生活するための工夫をする必要があるでしょう。

⑶慢性的な怒り
習慣的な敵意(怒ることが習慣になってしまっている)
恐れに基づく怒り(何かを失うのではないかと感じ、攻撃的になる)
道徳的な怒り(自分が正しいと信じるものを理由に、怒る権利があると考えてしまう)

→このパターンに偏ってそれが継続すると、怒りを我慢し続けている状態で、習慣的に敵対的になったり、人を信じられなくなったり、人と対等に付き合えなくなってしまう可能性があります。自分や他者を許す術や工夫を身につけると良いでしょう。

 

怒りは本当は、人間にとって自然な感情の一つ

・怒りは、生活上の問題を自らに知らせてくれる大切なシグナルであると認識する
・怒った時の言動を慎重に選ぶ、勢いに任せて怒る必要はない
・コントロール不能にならないよう、ほどほどに表現すること
・怒りの感情は一時的なもので、目的が達成できれば消えていく

不安や怒りは自分の身を守るためにもともと備わった大切な感情の一つです。

自分の表出のパターンやその偏りを把握して、上手にバランスよく表現・コントロールし、想いを適切に伝えることができるようにしましょう。

 

自分の怒りをどうしたら良いか?

・上記の怒りのスタイルの中から、様々な表現方法を組み合わせて、偏らないようにする
・怒りは、人間にとって自然な感情であることを認め、何かの問題のシグナルとして対応する
・必要な時の行動は、慎重に考えてから
・コントロールを失わない工夫をする
・目標は、問題を解決することだということを忘れない
・他者が理解できるよう、きちんと表現する
・一旦問題が解決したのであれば、その怒りに執着しないこと

 

これまでの子育てで私が注力してきたこと

・子どもに手をあげない、暴言を聞かせない
(暴力や暴言の使い方を教えない)
・行動科学を取り入れた子どもへの声かけ
(良い行動、好ましい行動が自然に増えるような褒め方、叱り方)と適切なタイムアウト
・子どもの習い事は上記のことをきちんとわかっている先生にお願いすること
・子どもの感情調節スキルを伸ばす読み聞かせ
(アメリカでは子どもに感情マネージメントを教えるための絵本がたくさん出ています)
・子どものことを人前で悪く言わない
(親が我が子を人前で卑下する行動は、子どもにとって非常に大きなダメージです)
・自分のストレスを低減させること、アンガーマネージメントを学ぶこと

When I Feel Angry (The Way I Feel Books)When I Feel Worried (The Way I Feel)When I Feel Sad (The Way I Feel Books) (English Edition)When I Feel Scared (The Way I Feel Books)When I Miss You (The Way I Feel Books)
上の絵本は英語ですが、ぜひ読み聞かせに取り入れてみてください。

自分でできるマインドフルネス:安らぎへと導かれる8週間のプログラム
↑自分のストレス低減にはこちらを使っています。

ストレスや疲労が過剰になると、感情のコントロールが難しくなるので
日頃から、疲れすぎない、ストレスを溜め込みすぎない工夫をしています。

 

音楽のフィールドに新たな視点と安心して学べる場を

ジャズヴォーカルアライアンスジャパンの設立と活動

誰もがジャズヴォーカルや関連する正しい情報を安心して学べる、相談できる、安全な場所を長い間、作りたいと思っていました。

この想いを理解してくださる仲間が見つかったことを機に2015年にこのコミュニティーサイトを立ち上げました。

https://jazzvocalalliance.com

ここでは不必要な上下関係やヒエラルキーを作らないで、素晴らしいメンターの存在やあり方を皆さんに知ってもらうことや、良い指導者に出会える場を設けることを実践してきました。

大好きな音楽に集中できるよう、それ以外のことで悩む方を一人でも減らしたい。

良いもの、正しい情報、適切な指導方法やメンター&メンティーの概念やそれを実践している方々を紹介していくことをこれからも続けて行きます。

これまで見えないところで行われてきたハラスメントが淘汰的に減ることを願っています。

 

以上が、これまで私が考え、実践してきたことの概要です。

ここにある情報が、少しでも誰かのお役に立てばと思っています。

 

Jazz Vocalist based in Tokyo, Japan. 東京を拠点にジャズを歌っています♪ 2019年1月、シアトルのオリジンレコードよりファーストアルバム「Art of Life」を日本、全米、カナダ、ヨーロッパ、北欧に向けリリース。 オフィシャルウェブサイト:mayokita.net